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鬼ヶ瀬塚村
第28章 横山総合診療所
『オラぁぁぁ…どうじだらええんだッ?』

『どうしたんですか?病気…だったんですか?』

僕の問いに達弘さんは顔を小刻みに振るわせながら黙っている。
目が爛々とギラギラしていた。
殺気すら感じる鬼の目だ。

僕は鳥肌が立った。

『帰ろう…』

ポツリと達弘さんは呟いた。
蝉の鳴き声に消え入りそうなほどか細い声だった。

『え…?』

僕をよそに達弘さんは泥まみれのままフラりと立ち上がり、水田に大きな足跡を作りながら軽トラへと近付いていく。

『達弘さんッ!大丈夫なんですかッ?ねぇッ!』

僕が声を上げても達弘さんから返事はなかった。

運転席に座り、シートベルトを締める彼が見えた。
僕も泥まみれのまま水田から出た。

何故だかわからないけれど、胸騒ぎがした。
まるで心臓に数匹のゲジゲジが這い回っているようだった。

久田の家にクワを取りに行かず、無言で荒岩家へと帰宅した。

もう解体は終わったのか、数人の村人や一郎さんが庭先でくつろいでいる。

『どご行ってだんだ?』

一郎さんがニコニコしながら僕と達弘さんに言う。
けれど達弘さんは返事もせず玄関へと大股で歩いていった。

僕も一郎さんに軽く会釈し達弘さんを追う。
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