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鬼ヶ瀬塚村
第29章 典子
『そ…そげな大それた事…わたじには…出来ません…御叱りを受けます…』

典子ちゃんは首を小さく横に振る。

『わたじは嫌われてるがら…駄目…なんでず』

寂しそうにそう告げる彼女…。

『誰がそんな風に?何かあったの?』

あまり深入りもよくないとは思いつつ僕は訊ねる。

『だ…誰にも…言わないで…ください…ね?』

『勿論だよ』

典子ちゃんは辺りを少しキョロキョロし、脱衣場までしげしげと目配せして確認すると話し始めた。

『さ…紗江さん…です』

紗江さんが…?
一体どうして?

『そ…それに…』

『それに?』

『カ…カ…カヤさんも…です』

『えぇッ?』

カヤさんは痴呆のフリをしているはずだ。
典子ちゃんを嫌ったりする理由は一体なんなのだろう。
普段から不機嫌で人付き合いに距離を置く紗江さんが年下の典子ちゃんをいびるのは想像がつくが…。

『カヤさんが?一体どうして嫌われてるって…わかるの?カヤさんは…ほら…』

『はい…カヤさんは…ボケでまず…でも…でも…あれば………ボケでるフリでず』

『………ッ!!』

典子ちゃんも真理子さんや僕のようにカヤさんの演技を知っていたのか。

『カヤさんは…痴呆じゃ…ないっぺ…』

典子ちゃんは呟く。
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