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鬼ヶ瀬塚村
第30章 鬼神祭
この湯は死者の血で汚れた身体を清める場所だ。
そんな聞くだけでも恐ろしい場所で僕は確かに生きている感覚を感じた。

『ああ…だからあの日優子の髪が濡れていたのか…』

僕はふと鬼ヶ瀬塚村に来た初日、居間にやってきた優子が湯上がりだった事を思い出した。

彼女は僕と真理子さんが来るのを見届けてから箱で仕事し、そしてここで血を洗い流して居間で煙草を吸っていたのか。

そんな恐ろしい場所なのに、僕は安心感と満足感に包まれているのだった。

そろそろ行こう。
達弘さんの件もなんだか心配だし、行かなくては。

僕は湯船から出ると紺に鯉模様の見事な浴衣に袖を通した。

浴衣にスニーカーと不恰好な姿だったが、僕は小走りで荒岩家を目指した。

ああ、なんだか生きている。
村の一部になりつつあると感じた。

荒岩家に戻ると、一同が何やら世話しなく支度していた。
優子は金魚柄の浴衣を着て上機嫌のようだ。
耳の上にも金魚の髪止めをつけている。
紗江さんと吾郎さんは酒瓶を何本も運んで用意している。
一郎さんは座って動かないカヤさんに粥を食べさせていた。
宗二さんと達弘さんの姿が見えない。

『お、いい湯だっだが?なぁ、見でぐれよぉッ!浴衣だっぺよぉ』
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