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鬼ヶ瀬塚村
第30章 鬼神祭

僕はジッと足元を見下ろした。

『知らねうぢに随分仲ばよぐなっだんだな、結構結構。だげんど1人でウロウロせん方がいいっぺよ?出来るだけ早ぐ戻れ、な?達弘ぐんば見掛げだら僕がら言うでおぐがらよ?な?』

一郎さんはまるで子供の機嫌を取るように優しく言ってくれた。

そうだ、僕は村人になったとは言えわずかに1日じゃないか。
色んな事がありすぎて、もう10年そこらここにいるような感覚がしていた。
麻痺していたのだ。
まだ村人達は完全に僕を信用したわけじゃない…。

『そげな顔ばずな?大丈夫だっぺぇ、きちんと言うでおぐがらよ』

一郎さんに言われて僕はまるで子供のように小さく頷き、元来た道を引き返していった。

あの時、力ずくでも達弘さんが泣き喚いていた理由を聞けばよかった…。

僕はトボトボとアスファルトを歩き、今更ながら後悔した。

階段が見えてくる。
僕は歌声や歓声や太鼓囃子に引き寄せられるようにして階段を上がっていった。

不思議な事に辺りの空気を臭いとは思わなかった。
箱の密集したあの臭さに比べれば、単なる焼肉屋の匂いだ。

慣れとは恐ろしいものだと僕は痛感した。
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