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鬼ヶ瀬塚村
第30章 鬼神祭
階段をまた同じように上がり、村人の輪に入る。
やはり達弘さんの姿は無い。
みんな達弘さんの存在なんか頭に無い様子で飲めや歌えやの舞い踊りだ。

炎を背に真理子さんが舞を披露している。

その目の前で奴奴が硬い程正座して舞を見ていた。

僕は奴奴に近付いた。
彼の横顔を見る、彼は号泣していた。

炎に爛々と照らされたその顔は汗と涙と鼻水で濡れていた。

顎や唇が震えている。

真理子さんの壮大で美しい舞を見て罪の意識を感じているのだろうか?

『大丈夫ですか?』

僕は奴奴の隣に腰を下ろした。

奴奴は真っ直ぐと真理子さんを見つめながら答えた。

『ありがとうございます…』

その小さな呟きには想像を絶する力が秘められていた。
僕の心臓は液体窒素に浸されて、粉々にされたようななんとも形容しがたい衝撃を受けた。

人1人の人生を救うこの重さ、僕の心臓は耐えられそうにない。
僕までなんだか目頭が熱くなって来る。

『僕の罪は消えません…けれど、あなた方は僕の罪を一緒に背負ってくれた…なかった事にしようとしてくれた…感謝しても仕切れない…』

奴奴は涙を拭う。
手の甲と鼻先が一瞬鼻水で繋がれているのが見えた。
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