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鬼ヶ瀬塚村
第30章 鬼神祭
『それにね、ふと思うんです。…いっそ捕まっても良いかなって…なんだかこの村の人達が僕の味方になってくれた事だけで何故だか満足なんですよ…おかしいですよね?』

理解して欲しかったから、認めて欲しかったから、人間は人を殺す。
殺意の原点は同調だ。
人間はみんな誰かに優しく受け入れて欲しいのだ。
無条件で優しく、ただ肯定されたいだけなのだ。

彼はだぬきになった江利香さんに愛を受け入れて欲しかった。
けれどだぬきはそれを拒否した。
彼の幸せとは彼女を愛する事だったはずだ。
生きる道を見失い、彼は江利香さんを殺した。

けれど…生きたかったんだ。

罪は罪だ。
殺人は現代の日本においては重罪だ。

けれど、キッカケを作ったのはだぬきになった江利香さんだ。

宗二さんの言葉を思い出す。

"好き好んで人間を殺すはずはない…ただ、少し…そうだ…カッとなって殺してしまう事だってある"

"自分だって愛する妻や夫、肉親や子供、大切な仲間や友人を殺してしまうかもしれないのに…"

奴奴という存在は僕にとってはとても遠い存在だった。
けれど今彼の言葉や泣き顔を見て改めて思う事がある。
人間は一秒単位で殺人者になるかならないかの瀬戸際を生きている生き物なのだと。
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