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鬼ヶ瀬塚村
第31章 一人だけ居無くなる
『まだ見回りがら帰っでねぇな』

紗江さんはテレビのリモコンを弄りながら言う。

祭りも終わってじきに一時間は経過しそうだ。
鬼神祭の間に部外者が迷い込んでくるのを防いだり、新たな奴奴が来ても大丈夫なように一郎さんを始め何人かは見回り担当だ。

そのまとめ役だという一郎さんがまだ帰って来て居ないのだ。

『鹿でも見つけて追い掛けてるんじゃないの?』

真理子さんはニヤニヤしながら言う。

『だっだらええげんどよ…明日夕刻には…聖狩りだろ?…お義父ざんの…』

御咎めの事か…。

『………』

『そろそろ弓だどが用意せんどいがんだば?一郎め何しどるんだばなぁ…』

紗江さんと真理子さんはあれやこれやと不在の一郎さんについて話し合っていた。

『もう寝るば』

ふと不意に達弘さんが立ち上がった。
余程疲れていたのか素麺にほとんど手を付けてはい無い。

『達弘さん…』

『なんじゃ、ノブさんよ?』

僕はやつれた彼を見上げてながら答えた。

『…大丈夫ですか?』

僕の言葉に達弘さんはしばらく曖昧な笑みを浮かべていたが、ニッと白い歯を見せてアルカイックスマイルを浮かべた。

『気にずんな、オラぁ大丈夫だっぺよぉ』
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