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第31章 一人だけ居無くなる

『なんじゃっでッ！？もういっがい言うでみろッ！！あﾞッ！！』

吾郎さんが慌てふためく様子の若い村人の胸ぐらを掴んでいた。

『吾郎さんッ！落ち着いてくださいッ！』

僕は吾郎さんに駆け寄り、彼の腕に手を乗せた。

吾郎さんの目は血走り、ギラギラしていた。

『本当なのがッ！？』

吾郎さんはとても年寄りとは思えない力で若い村人を揺さぶる。

『…本当だっぺよ…今、横山先生のどごじゃ』

それを聞き、吾郎さんは村人を突き放すように解放してから座りこんだ。

『一体どうしたんですか？』

僕が村人の男性に訊ねると、彼は言いにくそうに僕に事実を伝えた。

『一郎ば…死んだ…』

『えッ……………………………………？』

『早朝…うぢのべこが産気づいどっだがら、野犬が出んか若い男衆で見でだんだ…そじだら…一郎の死体ば…畦道にうつ伏せで…1人が見づげで…見たらもう事切れてだそうだ…』

『…そん…な』

吾郎さんは肩を震わせながら嗚咽を漏らし始めた。
歯の隙間からヒーヒーと音を立てながら彼は泣く。

その声を聞いてかようやく真理子さんもやって来た。

『あら、前田んとこの洋ちゃんじゃない？どうしたの？…あら、やだ…おじぃちゃん泣いてるの？』