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鬼ヶ瀬塚村
第31章 一人だけ居無くなる
真理子さんは受付台からボールペンを拝借し、京子さんの手の甲へ携帯の番号を書き込んだ。

『必ず電話して?』

『わがっだ…あたいに任ぜろ…真理子…あんまじ落ち込むなよ?』

『ん…ありがとう。おじぃちゃん、帰るわよ』

『………』

『おじぃちゃんッ!』

『んッ?お、おう…わがっだわがっだ…』

診療所を後にし、軽トラに乗り込む僕達。
僕は荷台で膝を抱えて震えていた。
どうして自殺なんか?
あんなに笑顔で過ごしていたじゃ無いか?
他殺?
恨みを買うような人だったろうか?
まだ深くは彼を知らないが、とても誰かから恨まれる様な人柄には思えない。

見回り中、護身用にでも持っていた小刀が誤って刺さったのだろうか?

いや…

待てよ…?

僕は達弘さんを探して鬼神祭を抜け出した昨日の夜を思い返す。

一郎さんは小刀も猟銃もなく手ぶらだった筈だ。
ただ懐中電灯を手にして見回っていた。

達弘さんを探すのに懸命で意識が研ぎ澄まされていたからよく記憶している。

彼は小刀なんて持っては居なかった…。

だとすれば…後から小刀を用意して自殺したのか?
いや、それではおかしい。

なら…他殺…なのか?
あんな朗らかな良い人が殺されたのか?
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