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鬼ヶ瀬塚村
第31章 一人だけ居無くなる
軽トラは静かにアスファルトを滑るように走った。

僕は両膝に顔を埋めて泣いた。
何故一郎さんが死んだのか理解が出来無かった。

もし、もしも殺人だとすれば犯人は何を思って丸腰の彼を殺したのだろうか。

診療所の診察台に横たわっていた彼の亡骸、それは紛れもなく微笑んでいた。

死後硬直だとか僕は詳しくは無いが、彼は最期に一体何を見て微笑み逝ってしまったのだろうか。

"信人ぐん、泣ぐなぁ?だんこじゃろぉ?"

彼の声が脳内に聞こえた気がした。

やがて僕ら3人を乗せた軽トラは荒岩家の庭先へと静かに停止した。

しばらくみんな無言で微動だにし無かった。

蝉が鳴き、庭の竹林が風に揺られてザァザァ鳴っている。

2~3分だろうか、長い沈黙を破って真理子さんがシートベルトを外して車外へと降りた。

そして助手席側に回り、ドアを開けて吾郎さんのシートベルトを外す。

『これからの事…みんなに…話さなくちゃ』

真理子さんは項垂れた僕と吾郎さんにポツリと呟いた。
吾郎さんは鼻水を地面にボタボタと垂らしながら泣きじゃくっていた。

彼にとっては目に入れても痛くない可愛い長男だったのだ。
荒岩家の大切な男手であり、嫁を貰って女子をもうけたかもしれない存在だ。
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