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鬼ヶ瀬塚村
第5章 宗二
『…何?』

振り返ると真理子さんはばつが悪そうな表情で

『ううん…なんでもない』

と小さく呟いた。
いつもの事なのに、なんだか彼女の声には深い念のような物を感じた。

何故だか真理子さんがとても恐ろしく感じて、僕は返事をしなかった。
本能だろうか?本能的に彼女を恐れた。

気を取り直して障子を見たが、そこには先程の気配も何もなくなっていた。

気のせいだったのか?

僕はふすまを静かに開けた。長い廊下が向かいの渡り廊下まで続いている。
僕は左右に首を振り、気配を探したけれど何もいなかった。

やはり気のせいだ。疲れてるんだろう。

僕は客室から出て、ふすまを閉じようとした。スルスルと閉じていくふすま、その間に真理子さんが見えた。

彼女はもう泣いてはいなかったが、表情は………どうしてだか、彼女は微笑んでいた。
能面だ。
能面のように薄ら笑いを浮かべて、畳を見つめていたのだ。

僕はこの村に来た事を少し後悔した。
なんだか僕の知っている真理子さんが別の人のように感じられて怖いのだ。

僕の知っている真理子さんは…とても弱い人だ。今の真理子さんは何かの力を秘めているようで恐ろしい。心底そう思う。
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