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第31章 一人だけ居無くなる

『真理子』

ずっと今まで無言だった弘子さんが口を開いた。

『紗江さんを連れて来かさい』

真理子さんは戸惑いを少し見せたが、黙ってそれに従い立ち上がった。
やがて真理子さんの足音が遠ざかって行く。

吾郎さんが"ううぅ…"と泣いていた。
達弘さんも息を荒げながら肩を振るわせ泣いている。

邦子さんはちゃぶ台に頭を埋めたままピクリとも動か無い。

カヤさんはこんな時でも相変わらずボケたフリに徹底しているようだったが、その目は今にも叫びだしたい衝動を抑え込んでいるもののように見えた。

廊下から泣き声が聞こえて来る。
紗江さんだ。
"嫌だぁ…どうじでぇ…"としゃくりあげながら泣いている声が近付いて来た。

真理子さんと紗江さんがやって来た。
和幸は優子に子守りを頼んだのだろう。
姿は無かった。

『紗江さん、そちらに座ってくださるかしら』

胸の前で指先を祈るような形で組んだ弘子さんが静かに言う。

紗江さんは鼻先を赤くし、それをこすりながら腰をおろした。

『今回の…一郎の死因は…自殺よ』

弘子さんは静かに言った。

達弘さんが顔を上げる。

『母ぢゃんッ！何言ってんだっぺッ！？俺が…』

『彼は自らの罪を嘆いて切腹しました。他殺ではありません』