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鬼ヶ瀬塚村
第31章 一人だけ居無くなる
『あなたは一体さっき誰に乱暴されたと言っていたのかしら?私はただ義姉ね、と……………………………冗談を言っただけよ』

弘子さんが整ったその唇を三日月型にして笑った。
唇の隙間から小さな歯が見える。

これほどまでに弘子さんが恐ろしい人だとは思いもし無かった。

『だ…だげんど証拠がねぇッ!おめら一体あたじがら何を言わせだいんだッ!?…あだしば忙しいっぺよ、冗談話なら…別でやっでぐれ』

紗江さんは立ち上がり、少し勝ち誇った笑みで僕達を見下ろしていた。

『真理子』

弘子さんが再び真理子さんを呼ぶ。

『はい』

『ここへ典子を連れて来なさい』

"典子"という単語が出た瞬間、みんな一斉に顔を上げて弘子さんを見た。

弘子さんは至って真面目で感情の読めない表情のままもう一度言う。

『真理子、典子を探してここへ連れて来なさい』

『………』

『行きなさい、真理子』

少し威圧的な口振りだった。
真理子さんは渋々立ち上がると、先程と同じように居間を後にした。

『さて、咎めはどんな物にしようかしら…?』

弘子さんが冷たく言う。
僕は少し身震いした。
まるで弘子さんが拷問の執行官に思えてなら無かった。
僕以上に紗江さんはもっと震えていた。
彼女の紫色のTシャツは汗で黒くなっていた。
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