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鬼ヶ瀬塚村
第31章 一人だけ居無くなる
『いつから2人だけで会うようになったの?』

『…嫁いでがら1年程しでがらじゃ…達弘ど…夜ば過ごすんが苦痛でな、耐えがねで一郎に全てを話たんじゃ…狩猟小屋で…猟銃の手入ればしどっだ一郎にな…』

『彼はなんと言ったの?』

『なで早ぐ言わねがっだど…泣いどっだ…その日のうぢに二度肌ば重ねだ…』

達弘さんが"う…うおぉ…"と嗚咽を上げながら畳に仰向けでパタリと倒れた。
両手で目をおおい、泣きじゃくっている。

『そうだったの…一郎も紗江さんを愛していたのね。可哀想な達弘、あなたは土俵入りすらしていなかったのね…』

弘子さんは深い溜め息をついた。

『わ…わだじばどうなるんでずが…?か…和幸は…?』

弘子さんはしばらく考えていた。
僕の隣で煙草を吹かす真理子さんも何か考えている様子だった。

『殺せ…』

一斉に声の主に一同が視線を集中させる。

『殺すじがねぇっぺ…こやっちゃば鬼の仔の母親だ鬼子母だ…』

吾郎さんはちゃぶ台を虚ろな目で見つめながら言う。

『い…嫌じゃ…』

紗江さんは首を激しく横に振り、命乞いをする。

『頼むッ!なんでもするっぺ、許じでぐれッ!!なッ!?』

『殺せ…』

吾郎さんはまるで何かに憑かれたように繰り返す。
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