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鬼ヶ瀬塚村
第31章 一人だけ居無くなる
『なんて優しい子じゃ…』

邦子さんが呟いた。

『和幸の父親は…おめだ、達弘…』

邦子さんはそう言って達弘さんに微笑んだ。

弘子さんは泣きじゃくる達弘を見つめ、次に紗江さんを見つめた。

『紗江さん、もうわかるだろうけれど…ここにあなたの居場所はもう無いわ。御実家のある鎌研ぎ村で恥を晒して生きなさい。彼らがあなたの身体に二度と男のモノが入らぬよう施してくれるでしょう…残念ね、紗江さん…まだまだ沢山子を産めたのにね』

『い…嫌…嫌じゃ、それだげば勘弁じでぐれ…なッ?た、達弘…おめもなんどが言うでぐれッ?』

紗江さんの言葉を達弘さんは黙って聞いているだけだった。
ただ、顔を覆った指先の隙間から彼女を冷たげに見つめているのが見えた。

『私から鎌研ぎ村の村長へ事情を説明しておきます。…彼は…元気にやってるのかしらねぇ』

『………嫌じゃぁ』

『大丈夫よ紗江さん、最初は痛むでしょうけれど…細い針と糸で"穴"を塞ぐだけよ?昔、それをする現場をじかで見させて頂いた事があるのよ………壮絶の一言だったわ』

弘子さんはニッコリ微笑んで言った。

彼女のその笑みを見て僕の背中に滝のような汗が流れた。
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