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鬼ヶ瀬塚村
第31章 一人だけ居無くなる
『達弘は2日間断食を命じます。仮にも小刀を持って一郎の所へ行ったのがら…和幸は…典子さん、あなたが面倒を見なさい』

『えぇッ!?わたじがでずがッ?だげんど…わだじ…乳ば出ないでずば…』

『ふふふ、誰も育てろなんて言っていないわ。あなたにも役目が必要でしょう?今日からあなたは…荒岩典子、荒岩家の子なんだから』

典子ちゃんが"うぅッ"と顔を歪ませ弘子さんを見上げていた。

『どうか私達の今までの行いを許してちょうだい』

『お…奥様…とんでもないでず…』

『真理子、近隣の男手を集めなさい。紗江さんの部屋の荷物を運び出すのです』

紗江さんは真っ青な顔のまま微動だにしなかった。
ただ、時折まだ救いを求めるように達弘さんを見ていたが、彼は一度も紗江さんと目を合わそうとはしなかった。

『さぁ、最後の別れになるわね…信人さん、お願いがあるのよ』

『なんでしょうか?』

突然名前を呼ばれて僕は一瞬だけビクッとした。

『和幸を連れてきてくれないかしら?もう二度と母親とは会えなくなるのだから』

それを聞いて紗江さんがまるで甲子園の開幕音のような甲高い唸り声を上げて泣き出した。

事の重大さがようやく理解出来たのだろう。
口を大きく開きながらワァワァッと泣き叫ぶ紗江さん。
彼女が一郎さんに想いを告げる勇気ほんの少し早くにあれば、こんな結末にならなかったはずだ。
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