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鬼ヶ瀬塚村
第32章 二人だけいなくなる
僕は立ち上がり廊下に出た。
背後では相変わらず紗江さんが号泣している。
一度に愛する男と我が子を失う彼女の気持ちを生憎僕は理解出来無かった。

きっと男である以上、死ぬまで紗江さんの気持ちはわから無いだろう。

『なんがあっだんが?』

廊下の奥から二階へと続く階段に優子が座っていた。
不思議そうな顔をして僕を見詰めている。
その腕の中には和幸の姿があった。

どう言えばいいのかわからないまま僕は優子に

『和幸くんを居間に連れて行きたいんだ』

と告げた。
彼女は"ふーん"と言って和幸を抱いたまま立ち上がった。

『オレも行ぐ、典子の声が聞こえだ気がしだがらな』

『あ、ちょっと…』

『なんだ?オレが行くと都合ば悪いんが?子供だがらっで仲間外れにしでよぉ、おっちゃんは帰っでぎだんが?』

『………』

僕は何も言えなかった。

『もうええ、オレが直接聞きにいぐッ』

優子はパタパタッと和幸を抱いたまま駆け出した。
僕も優子に続いて居間へ戻る。

『あんれまぁ…どじで紗江のおばちゃんば泣いでるんだぁ?あど…兄ぢゃんもよ、ん?じぃちゃんも泣いでるんが?何があったんだっぺ?典子までいるじゃねが?』

優子が立ち尽くしたまま一同を見下ろしていると、紗江さんが立ち上がり優子に近付いた。
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