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鬼ヶ瀬塚村
第32章 二人だけいなくなる
『気は済んだかしら?』

弘子さんが冷たげに言うと紗江さんは戸惑いつつも首を縦に振った。
それを見た瞬間吾郎さんが紗江さんから和幸を取り上げる。

『あ…和幸………ごめんね』

紗江さんは小さく口の中で呟いた。

和幸と優子だけがその場を理解出来ずにキョトンとしていた。

やがて電話から30分程して日に焼けた麦わら帽子の20~40代の若い男衆が4~5人集まった。
皆筋肉隆々である。

『ではお願いね、出来れば内密に…じきが来たら真理子から村人の皆さんにお話するわ。本当にお忙しい中ごめんなさい、心からお詫びするわ』

弘子さんは彼らに頭を下げる。

『構わねぇっぺよ、ワジらのトラックで往復もせんうぢに鎌研ぎ村じゃ。どのみち向こうにわじらも用があっでな、種牛返してもらわにゃいがんのよ。紗江ぢゃんにば悪いが荷台に乗っでもらうがね』

『本当にありがとう…後できちんと礼をさせていただくわ』

男衆はドカドカと玄関を上がり紗江さんの部屋がある二階へとのぼって行く。

僕も手伝おうかとシャツを腕捲りしていると弘子さんが言った。

『今は…達弘の所へ行ってやってくれないかしら?』

『え…?』

『あの子はね、真理子と同じで普段は強がっているだけなのよ?あなたは大切な友人でしょう?側に居てあげて?』
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