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鬼ヶ瀬塚村
第32章 二人だけいなくなる
『たまたま散歩していただけですよ』

僕は嘘をつく。
達弘さんは"ハハッ"と笑いようやく顔を上げた。
まるで皮膚病にかかった狐のような顔だった。
目の周りがパンパンに腫れて充血し、目蓋は質量を含んでいる様子だった。

『なぁ、せんせ…』

『なんです?』

達弘さんはニッカパンツのポケットから煙草を取り出す。
そして口に咥え、しばらくしてから先に火を着けた。
辺りにニコチンが焼けるニオイが漂った。

『俺よ、さっきな…一つだけ嘘ばづいだんだ』

『………』

『最初がらよ、紗江ば俺を好いどらんど知っでだんだ…さっき居間では"好いで好がれで"って…オラぁ言ったけんどよ…紗江は…あいづの目に一度だっで俺が映っだごどはねぇ』

『………』

『17の青くせぇガキんぼの時によ、意を決して13歳だった紗江に"オラのスケになっでぐれッ!"っで…言うだんだ…』

『………』

『あいづはよ、癖のある顔付きだげんど…よぉぐ見ると可愛ええんだ…』

『………』

『んでよ、あいづの実家はよ、あいづの赤神をあいづが17の時っで決めでだらじいんだ…俺はよ15で済ませちまっでだがらよ…そりゃあ辛抱強く4年待ったっぺよ。接吻すらせんなんだ…我慢しどっだ』
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