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鬼ヶ瀬塚村
第33章 恋
『さぁ…僕にもわかりません…ただ、言えるのは…』

『………?』

『愛する人に嫌われたくない気持ち、それが恋じゃないですかね?』

僕はポツリと呟くように言った。
久しぶりの煙草は美味かった。
ケントからすればラッキーストライクはかなりニコチンとタール量が倍以上だっだが…。

『嫌われたくない気持ち?』

『はい、キスしたいだとか…抱き締めたいとか…セックスしたいって思う女程僕には遊びだったんですよ、昔はね。けど、僕は真理子さんに嫌われたくない。どこにも行って欲しくない。唇だとか性器や乳房だとかじゃなく、真理子さんの魂が好きなんです。だから僕は真理子さんが植物人間になってしまって言葉を発せず、僕の事もわからず、僕に何も求めず、ただ離乳食を鼻から流し込まれて排泄するだけの存在になっても…変わらず僕は彼女が好きだ。そりゃ真理子さんは綺麗だし多才な人だ、その気になればモデルやタレントだって出来るさ。けれどそんな誰でも、赤の他人でも、真理子さんの名前すら知らない人間ですら認識出来る表面上の真理子さんを形作る情報を好きになってどうなる?僕が好きになったのは誰もが真理子さんを好きになる場所じゃない。そして"僕"じゃなければ好きにはならなかった。僕が作りだした脳と細胞と経験にもとずいて、僕は真理子さんを魅力に感じているんだ』
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