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鬼ヶ瀬塚村
第33章 恋
『本当はどこかで和幸が自分の息子ではないと知っても、墓場まで持っていくつもりだったんじゃないですか?』

『………』

『けれど、いざ事実を知らされて爆発してしまった…』

『せんせはなんでもお見通しじゃな。その通りだっぺよ。オラぁよ、初めて奴奴の気持ちがわがっだぜ…人間、とんでもねぇ事実を突き付けられるどな…嫉妬だどが不安だどが悲しみだどが怒りで我を忘れちまうんだっぺな…誰でも奴奴になっちまう要素はあるんだ。奴らだけ特別なんかじゃあねぇ』

達弘さんの言う通りだ。

『ざっぎのよ、ワサビ入りのガムみでぇによ…へッ…俺はワサビ入りを紗江には普通のやづを食わせでだどじでもよ…オラぁ紗江に"おめの為にワサビば入っだやづ食ってる"って知って欲しいな…』

『誰だってそうですよ。僕も同じだ。けれど、僕は気付きもしなかった…大学時代に真理子さんだけがずっとワサビ入りを食べていたなんて…僕は気付きもしないどころか、手渡された普通のガムすら食べようとしない時があった』

『そいつぁひでぇな…へへッ』

『難しいですよ、男と女は…』

『んだなぁ…まるで女ってぇのはわからねぇ』

僕と達弘さんは青空を見上げた。
入道雲が豊満な女性のくびれに見えた。
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