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鬼ヶ瀬塚村
第33章 恋
『この先によ、駄菓子屋があんだ。棺桶に片足突っ込んでるような死にかけのババァがやっどる…ワサビ入りだどが、梅入りだどがの二個繋ぎのガムが売ってんだ。買いに行くっぺよ』

達弘さんは勢いよくブランコをこぎ、反動で前に飛び降りると僕にニッと歯を見せて笑った。

『いいですね、行きましょうか』

僕らはまるで中学生の少年のように自転車を2人乗りした。
宗二さんのひしゃげた自転車がキィキィと重量に耐え兼ねて悲鳴をあげている。

構わず僕らは2人乗りをした。
大男の達弘さんが後ろに、僕は汗を流しながらハンドルを握る。

少年時代に夢中だった特撮ヒーローの話や、興奮し胸をドキドキさせたグラビアアイドルの話をしながら自転車をこいだ。

僕も達弘さんも笑っていた。

人間ってやつは本当に弱い。
ただ一言"そうだね"と肯定して欲しいだけなのだ。
そうすれば、仕事も恋愛も何もかもが上手く行く。

君の愛の為にこれだけ傷付いているし、不安も悲しみもあるんだ…そんな思いを少し感じて欲しい。

そして同じように教えて欲しい。

同じ言語に生まれた日本人同士なのに、どうして僕らはすれ違うんだろう。

心がすれ違ったままの愛情に意味はあるのだろうか?

僕は嫌だ。
今なら真理子さんの思い全てを肯定したい。
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