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鬼ヶ瀬塚村
第33章 恋
『…俺のとこは…良いんだ…』

達弘さんは口をつぐんで俯いた。
静江さんは全てを察したような顔をしながら頷き、そして達弘さんに言う。

『男と女ってぇのは難しいよな。けどね、達っちゃん…あんたはまだ27じゃないか』

『28っぺよ』

『あら、やだ…最近本当に物忘れがひどいのよ。まぁ、お聞き達弘や』

『説教なら聞かんぞ』

『そうやって避けてるうちにはいいかもしれない、けれど私が死んだら私の言葉は二度と聞けないのだよ?言っている意味はわかるね?』

『………』

『そんな顔をするな、まだ死にはしないよ。さて、何を聞かせてやろうかね…』

『あの…』

僕は静江さんの顔をジッと見ながら言った。

『静江さんはどちらの方なんですか?』

『私かい?そんな事を聞いてどうする…まぁいいさ…教えてあげようかしらね…私は東京の上野からこの村に来たのさ…嫁いだんだよ、このボロ屋敷にね』

『母ぢゃん、入るぞ』

助三さんが盆にお茶を乗せて座敷に入ってきた。

『暑がっただろ?飲め、飲め』

僕はグラスを受け取った。
助三さんがそれにお茶を注いでくれる。
もうなんのお茶かなんて僕にはどうでもよかった。

『二階で蚕見でるがら、用があっだら呼んでぐれ』

助三さんはそう言って座敷から出て行った。
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