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鬼ヶ瀬塚村
第33章 恋
『私はちょうど御徒町で和菓子屋をやってたんだよ。女学校を出たばかりの16歳だった…そんな私に目を付けた愚かな男が居たんだよ…死んだ亭主だ』

『ババァ東京で和菓子屋だったのが?初耳だっぺよ』

『父親が祖父の代から引き継いでいてね…空襲で駄目になったのを建て直したのさ。ある日やって来たのさ、紺の着流しに洒落たシャポーハットでね、腰にはキセルをさしていたよ…その男がね、言ったのさ"俺の嫁にならねぇが?"ってな』

『ジジィ随分といぎなりだな』

『そうでもないのよ、彼は時々東京に来てはうちの柏餅をよく買って帰ってたのさ。甘いものが大好きな男だったよ。私の父は彼と気が合うらしくてね、縁談には乗り気だったよ。家の7人兄弟姉妹の末だった私さ、単なる穀潰しでしかなく口減らししたかったんだろうよ』

『よぐ女学校なんで行かせでぐれだな?』

『泣いて頼んだのさ、祖父も父に知識は財産だと言ってくれてね、今から思えば本当に奇跡だったよ』

『ぞれがらどうなったんだ?』

『私には当時想い人がいたんだ。ちょうど鵜の池の側にあった旅館のドラ息子だ…達弘、あんたみたいな人だったよ。だから私は結婚なんてしたくはなかった…旅館の息子も私を離したくないと、2人して泣いたよ』
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