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鬼ヶ瀬塚村
第33章 恋
『何度駆け落ちしようか心中しようか迷ったことか…けれど同時期にドラ息子にも縁談が来てね、京都の旅館の娘さんを結局嫁にしちまったのよ。残された私は死んでしようかと思ったよ、けどふと思ったのさ…あの旅人の男の事を何も知らないのに嘆く理由はあるのかとね』

『ババァ前向き過ぎるな』

『そうかしら?じゃあ達っちゃんよ、あんたは地獄行きと書かれた立て札と何も書かれていない立て札がある分かれ道に来たら…地獄を選ぶのかい?』

『極論過ぎるっぺよッ!』

『ふふ…けど、当時の私にはそう感じのよ。なんせ16歳の生娘だ…生きたかったんだろう』

『それで…ジジィに嫁いだのか?』

『ああ、そうだよ。聞けば彼は相当な資産家だったんだ…今はこんなにボロだけれどねぇ、父も母も私の玉の輿に大喜びだったよ。錦織の花嫁衣装を母が作ってくれてね、そりゃあ見事な婚礼式をしたもんさ…そして結婚したその日のうちに私はこの村にやってきた…男は初めてそこで名乗ったよ"俺の名前は仁助、おめは俺を仁助さんと呼べ"ってね。気難しい男だったよ、だけんど初夜はちっとも私の身体に触れなかった…ただ、村の話や友人や博打の話を聞かせてくれてね、朝まで将棋を指していたよ。笑えるだろう?』
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