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鬼ヶ瀬塚村
第33章 恋
『やがて次第に私は牛や豚の世話をするよう言われた。最初の頃はこのあたりにも養豚場があったんだよ。私は鼻が曲がりそうなのを耐えながら掃除したさ…泣きたくなったものだよ、どうして私が…ってね』

『逃げようどば思わねがっだのが?』

『勿論思ったよ…いや、実際逃げ出した事は何度かあった。けれど村の入り口で震えているしか出来なかったよ…帰る場所もなかったしね。やがて村の秘密を知った、けれど私は大して驚きはしなかったよ…戦時中は人肉を食す事もあったと聞いていたしね、そして何より死体を完璧に隠蔽するのは食べる他ない…』

『すげぇ胆だなババァ』

『結婚して一年程した時にね、父から便りが来たんだ。金が底をついたとね、工面を頼まれたよ。仁助さんは二つ返事で父に金を貸したさ、そして便りにはこうもあった"旅館のドラ息子が離縁した"とね、私の心は揺れたよ…離縁したなら…彼に会いたくなった…私は夜にコッソリ家を抜け出したよ、持てるだけの物を持ってね』

『たまげたなぁ、流石ババァだ』

『そうでもないわよ、結局見回りの村人に見つかってしまったのよ。私は村の広場に引きずられていったわ…そこには仁助さんの姿もあった。眼鏡越しに見えた彼の目はとても悲しそうだったよ』
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