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鬼ヶ瀬塚村
第34章 5人のマタギ
宗二さんは今日1日人間ではないのだ…彼は猪なのだ。
罪を犯した猪。
農作物を荒らす猪を退治するが如く彼は狩られるのだ。
一郎さんがいない今、僕は5人のマタギ達を信じる事しかできない。
けれど、一郎さんの次に弓の名手だという銀次郎さんがいれば…もしかすれば…僕は期待を胸に宗二さんのいる楼閣へと白湯を運んだ。
まるで迷路のような荒岩家の離れ、昔旅行で連れられた伊賀の忍者屋敷みたいだ。
僕はその時両親とはぐれてしまい、泣きじゃくっているとどこからともなくくの一が現れ出口へと送り届けてくれた。
係のおじさんはわざとらしく"くの一?そうなんか、坊主会えたんか?運がええよ…この屋敷には滅多にくの一はこーへんからねぇ"と僕に言ったもんだ。

単なるくの一姿のアルバイト女性を本物のくの一だと信じてやまなかった小学校1年生の思い出だ。

あのくの一は今頃どこかで朝の特集番組でも眺めながら皿洗いしているのだろうか。

そんな昔の事を思い出しつつ僕は楼閣へやって来た。

木で出来た格子が三重になっていて、その奥にふすまが見える。

僕は真理子さんから借りた鍵の束から"壱"と書かれた物を鍵穴に差し込む。
カチャリッと音が弾け、格子を左右に引く。
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