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鬼ヶ瀬塚村
第34章 5人のマタギ
『大丈夫ですよ宗二さん。マタギに銀次郎さんがいるじゃないですか』
『そうだね、確かに銀次郎くんは弓の名手だ。実の所は一郎くんよりも弓は上手い、猟銃はからっきしだがね』
『えッ?そうなんですか?』
『一郎くんは猟銃も弓も得意だが、特に猟銃は百発百中の腕前だ。弓も勿論うまい…けれど…人間を相手となれば銀次郎くんより経験が少ない。銀次郎くんの方が皮肉にもくじ運があるんだよ』
宗二さんは力なく笑った。
『さて、では頂こうかな…うん、柚がいい香りだ』
宗二さんはシワシワの手で白湯が入った椀に手を伸ばす。
片手でレンゲを持ち上げあげようとした時だった。
『あッ!』
椀はスルリと宗二さんの手から滑り落ち、彼の白装束と畳にこぼれた。
『ああ…勿体無い』
宗二さんはそれを眺めて呟いた。
『僕、新しく持ってきます。宗二さん、待っててください』
『信人くん』
『…はい?』
僕が立ち上がろうと腰を浮かすと、宗二さんは仏のような笑みを僕に向けて言った。
『真理子にはすまないと謝ってくれないか?せっかく作ってくれたのにな…代わりはいらんよ、これも定めだ』
僕は顔をしかめた。
何を…彼は、何を言っているんだ?
『そうだね、確かに銀次郎くんは弓の名手だ。実の所は一郎くんよりも弓は上手い、猟銃はからっきしだがね』
『えッ?そうなんですか?』
『一郎くんは猟銃も弓も得意だが、特に猟銃は百発百中の腕前だ。弓も勿論うまい…けれど…人間を相手となれば銀次郎くんより経験が少ない。銀次郎くんの方が皮肉にもくじ運があるんだよ』
宗二さんは力なく笑った。
『さて、では頂こうかな…うん、柚がいい香りだ』
宗二さんはシワシワの手で白湯が入った椀に手を伸ばす。
片手でレンゲを持ち上げあげようとした時だった。
『あッ!』
椀はスルリと宗二さんの手から滑り落ち、彼の白装束と畳にこぼれた。
『ああ…勿体無い』
宗二さんはそれを眺めて呟いた。
『僕、新しく持ってきます。宗二さん、待っててください』
『信人くん』
『…はい?』
僕が立ち上がろうと腰を浮かすと、宗二さんは仏のような笑みを僕に向けて言った。
『真理子にはすまないと謝ってくれないか?せっかく作ってくれたのにな…代わりはいらんよ、これも定めだ』
僕は顔をしかめた。
何を…彼は、何を言っているんだ?