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あなたの胸の中で眠る花
第3章 新しい春

あんなに街を白く染めていた雪はゆっくりと溶け始め、暖かい陽射しが降り注ぐ。
引っ越しの準備も順調に進んでいる。今日は学校もバイトも休み。部屋の荷物を整理していると、佳永子先生が私を呼びに来た。
「こっちゃん、お父さんに挨拶しに行こうか」
「うん」
車で一時間半、海沿いの綺麗な霊園に到着する。そこにパパのお墓がある。以前命日に供えた花はすっかり枯れ、新しい花に入れ替える。墓前で手を合わせて目を閉じると、パパの顔が映し出される。いつも笑っていたパパの顔はあの頃から何も変わらない。
パパ、私、明日卒業式なんだ。もう十二年も経つんだね。学校に通えたのもパパが遺してくれたお金があったから。本当にありがとう。仕事はね、高校から始めたお弁当屋さんのバイト、そのまま続けるんだ。一人暮らしはどうなるか分からないけど、頑張ってみるよ。だから心配しなくて大丈夫だよ。もし、もし生きるのが辛くなったら…………やっぱり、何でもない。
静かに目を開けると、柔らかな優しい風が吹いた。微かに感じる海の匂い。なんとなく、パパが背中を押してくれたような気がした。
「佳永子先生、お昼ごはん食べて帰ろう」
私が振り返ると佳永子先生は優しく頷いた。

