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あなたの胸の中で眠る花
第2章 真冬が繋ぐ出会い

あ……今、目が合ってしまった。私はすぐに目を逸らし、わざとらしくつり革の広告を見る。無意識だった、恥ずかしい。パパと同じ年代の人をすぐ見る癖やめなきゃな。パパが生きていたら…と一人になるといつも考えてしまう。どんな人生を送っていただろう。でもパパが生きていたら、佳永子先生にも真ちゃんにも出会わなかったんだろうな。そう思うと人生は皮肉なものだ。
ガタンッ
電車が大きく揺れて、体がよろけて倒れそうになった。思わず隣にいた男性の腕を掴んでしまった。私はすぐ離れ、ドアに体重を預ける。
「ごめんなさい…!」
「大丈夫ですか…?」
その人は一瞬驚いたけど、気にしてない様子でこっちの心配をしてくれた。お互いドア側にいるため後ろからものすごく押される。その人は私の方を見て苦笑いする。私もつられて苦笑いした。
あー…早く着かないかな。あと十分くらいかな。ただでさえテストで疲れてるのに、こんなところ状況なら余計疲れるな…。そう思っていた時だった。ふいに、太ももに違和感を感じた。その違和感は徐々に確信へと変わり、私を凍りつかせた。その手は私の太ももをゆっくりと撫でまわし、股に挟んできた。一瞬ビクッと体が動いた。最悪。まさか痴漢に遭うなんて。早くやめさせなきゃ、と思いつつも声が出せない。声を出して注目されたくないし、もしも間違っていたら恥ずかしいし…そんなこと考えている場合じゃないのは分かっているけど、どうしていいか分からない。あと、あと十分我慢すればいい。そう思いながら目を瞑る。鼓動が早くなる。痴漢の手は少しずつ大胆になり、パンツの中を弄ってきた。うそでしょ。しかもこの手、横から触ってる?何気なく横を見たら、座席に座ってる五十代くらいの男性が不自然な形で鞄を持っている。その手はうまく隠されていて私のスカートの中に続いている。男は平静を装っているのか、無表情のまま。私が気付いていることに気付いていないのか。パンツの中の手は、摩るように陰毛に触れてきた。気持ち悪い…!もう十分どころの話ではない。早く駅に着いてと願うばかり。そして、咄嗟に反対側を見た。窮屈そうに鞄を抱え、窓の外を眺めている。
この人なら気付いてくれるかな。
そう思った瞬間、目の前が真っ暗になった。

