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人魚島
第4章 咲子の村案内
克己さんが敬礼する。

『篠山春樹と言います』

『春樹か、なかなかええ面構えやな、なんやお前等は付きおうてるんか?』

克己さんが奥から瓶のオレンジジュースを冷蔵庫から取り出しなからニヤニヤする。
咲子が慌てて首を横に振りながら『まだだよ』と笑う。

『なぁ、お前、万引き、カツアゲ、不法侵入、恐喝、飲酒、ノーヘルの2ケツ…もうすんなよ?』

『最近は専ら大人しくしてるよ』

『島中から通報あって駆け付ければだいたいお前ら悪餓鬼八人組みや、咲子、誠、春香、敦、禅、穂波、正太郎、広子って相場は決まっとる。他所様の牛舎に放火したり、妊娠中の雌牛の腹蹴り上げたり、猫やら犬やら虐めたり、お前らが俺の有給休暇奪いよるんや』

戸棚から取り出したグラス二つにトクトクッと小気味良い音を立てながらオレンジジュースを注ぐ克己さん。

『良いか?俺はここで生まれ育った大先輩や、言う事をよう聞け、大人しく16歳迄過ごしゃあ良い漁師と結婚出来るけん、雌餓鬼は大人しくしとけや』

『ホンマは大阪市の警察署に勤めたかったんやろ?』

ニヤニヤしながらグラスを傾ける咲子に続いて僕もグラスを傾けた。
克己さんは缶珈琲を呷っている。

『昔の話や、やし大阪には三咲みたいな良いおなごおらんけん』

『母ちゃんは橘と再婚するからな』

『え?いつ?』

『花子が16歳になる時迄やから後3年やな』

『明とは上手く行っとらんけ?』

『いや、仲良くしとる。じゃけん母ちゃんは性欲が強いけん毎月何ヶ月も家空けよる父ちゃんには付いていけんのとちゃうけ?母ちゃんは強がりやけど、ああ見えて寂しいんとちゃう?』

『ああ、人妻や無かったら一晩中抱いてやるのになぁ』

『しゃあ無いけん、諦めや?』

ニヤニヤしながらグラスを傾ける咲子。

『おお、飽きらめねぇよ、早く補導されろや?プリケツ振りながらお前の事心配した三咲が迎えに来たら、あいつに会えるからな』

『もう悪さはやんねぇよ』

咲子が空いたグラスをデスクに置く。
乾いた潮風が吹き荒れて黒い猫の毛を靡かせていた。

『明やら橘やら俺やら島中の飢えた男達やら三咲はモテモテやな、じゃけん売春宿美魚が繁盛する訳だ。最近じゃ広子の母親や正太郎の母親等が精出して漁師共に股ぐら開いてんな』

『売春宿?』

僕が小首を傾げると咲子が『怖い物見たさに行く?』と笑う。
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