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人魚島
第4章 咲子の村案内
砂浜に面した公道を走る事5分、空き地が見えて来た。
赤い消防車が軒を連ねていた。
咲子が駐車場脇に原付を停めて立ち上がり『清にぃちゃんおるけん、紹介するわ』と駐車場を横切って行く。
手をしっかり握り合いながら建物に近付けば何やら腕立て伏せする7~8人の若い衆が居る。

『限界でありますッ!』

『まだまだやれる、やれるッ!』

『腕が折れそうでありますッ!』

『まだまだぁッ!』

何やら熱気ムンムンの雰囲気で訓練を続ける男達。
濃紺のレンジャースーツ姿で逞しく腕立て伏せの訓練を続ける男達。

『ああ、咲子か』

笛を片手に若い男が僕等の気配に気付いてか振り返った。
筋骨隆々で額に傷痕があった。
何処と無く飢えた野犬の様な雰囲気の男だった。

『これが清にぃちゃん』

『君は?』

清さんが眉ねを寄せた。

『篠山春樹です。咲子さんの遠い親戚です』

『ああ、曾祖父が亡くなったからわざわざ東京から出てきた坊主か』

ワハハッと豪快に笑い『飴いるか?』と僕の顔を覗き込む清さん。
飴を受け取りながら清さんをまじまじと眺めると清さんが『よし、お前ら休憩やッ!』と若い男衆に告げる。
男達がハァハァハァとコンクリートの床にしゃがみこみ脚を投げ出す。

『最近大人しくしとるみたいやな』

清さんが男達にタオルを手渡しながら咲子に言う。

『何が?』

『牛舎やら養豚場やら養鶏場に火は放って無いみたいやな』

『ああ、飽きたけんな』

悪そびれる事無く脚をクロスさせ、唇を尖らせる咲子。

『飽きたのか、ハハハ…なら出動する羽目にもならん訳や』

『清にぃちゃんは父ちゃんの幼稚園時代からの先輩やねん、一個上やけん今年38歳や』

咲子が飄々と笑う。
可愛い。

『あいつと死ぬ程喧嘩したよ、主に郁子ちゃんの奪い合いでね、あいつは死ぬ程手出しが早いけんな』

不意に胸ポケットからケントのメンソールの箱を取り出し分厚い唇に咥えながら懐かしむ清さん。

『郁子さんってどんな人だったんですか?』

『ああ、郁子ちゃんか、村一番の綺麗所だったよ、汗水垂らした俺のマドンナだったな』

彼もまた常連なのかスナックマーメイドと陳腐に印刷コピーされた安物のライターを取り出しシュボッと軽快にケントの先端に火を付ける。

『働き者で如才無くかつ美しかったよ、郁子ちゃんの笑顔は俺の活力やったけんな』
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