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人魚島
第5章 夏祭り
ミケさんが座席シートに無造作に寝かせたウイスキーの小瓶二本の内一本を僕に手渡しながらハーレーダビットソンの座席シートに寄り掛かった。

『コンドーム欲しいなら一箱11個入りタダで譲ったるわ』

『え?』

『ただしうちのプレハブ来てや』

『何故?』

『デッサンしたくなったから』

『デッサン?』

『あたしこう見えて東京の武蔵野美術大学卒業し立てやねん』

22歳かな?

『あらかた日本画が好きでな、コンクールとかじゃ金賞ばっかだったよ、何?ウイスキー呑め無い?仕方無いね』

ミケさんがビニール袋から発泡酒の缶を取り出し『これなら呑めるだろ?』と笑う。
僕は『すみません』と発泡酒のプル部分に指先を這わせ一気に開いた。

『あたしんちに大量にコンドームあるから、今からうち来る?』

『良いんですか?』

『海岸沿いのプレハブ集落に住んでるよ、蓮もそこに住んでるよ、ただし、一度魚姫寄るよ?買い出し中だったけん』

ミケさんがブラックデビルをヴィヴィアンウエストウッドの携帯灰皿に捩じ込みながら、これまたヴィヴィアンウエストウッドのオーブのキーホルダー付きのキーをハーレーダビットソンのキーシリンダーに突っ込んだ。

『ヘルメット一つしか無いから、貸してやるよ』

ミケさんが髑髏を模したフルスモークのフルフェイスヘルメットを僕に手渡しハーレーダビットソンに股がる。

『早いよこいつ、だからしっかり掴まってなよ?』

僕はミケさんにしがみ付きながら後部座席に股がった。
すぐさま腹の底を引っ掻き回される様な怒号のエンジン音がし、改造されたマフラーがガタガタ揺れた。

『出すよ』

『はい』

フルフェイスのヘルメットを被ればシャンプーやら石鹸の甘い香りがした。
思わず欲情しそうになる。
ミケさんが始動する。
ハーレーダビットソンはあっという間に漁港を横切り物の数分で売春街に辿り着いた。
『待ってな』とミケさんがハーレーダビットソンから降りて荷物両手に魚姫の扉を足で開く。
まだ午前中にも関わらず売春街は多くの男で賑わっていた。
不意に橘さんの姿が見えた。

『橘さん』

近付けば未だに鼻をグスグス鳴らし目の周りを皮膚病の狐よろしく赤く腫らした橘さんが『よう、坊主』と力無く笑う。

『大丈夫なんですか?』

『アハハ…大丈夫じゃねぇから売春街に来たんだよ』

『あ、蓮さん?』
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