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人魚島
第5章 夏祭り
『ああ、久しぶりに蓮と長話したくなってな、今予約待ちだわ』

赤丸から煙を吐き出しながら弱々しく笑う橘さん。

『何しに来たんや?坊主?お前の年齢じゃここのねぇちゃん等買えんぞ?』

『市場で偶然ミケさんって女性に会って今からミケさんの家に行くんです』

『ああ、バイセクシャルのミケか』

『バイセクシャル?』

僕は聞き慣れ無い言葉に首を傾げた。

『男でも女でもどっちでもヤレる連中の事や、薄ら気味悪いぞ』

『え…』

『専ら前まで凛ってナンバーファイブの三十路の女と付き合うてたが、凛が結婚して呉市に引っ越してからは誰とも付き合うて無いらしいな、なかなかまぁまぁ美人やけど、何考えとるんか解らん伏があるけん、気を付けろよ?やし、武蔵野美術大学出てる位やオツムかてよう回るけんな?』

『橘やん』

魚姫から出てきたミケさんが橘さんに近付く。
香水を付けてきたのか甘酸っぱい香りがブラックデビルの残り香に混ざって漂っていた。

『蓮待ち?』

『せや、お前は?』

『遅番やから、プレハブハウスで寝てたら買い出しや言われて叩き起こされたわ』

『ほな明日朝迄あんあんイクイク言うんか?』

『老けたね橘、あたしは客じゃオルガスムス感じ無いよ?』

『ああ、そうか』

『また指名してや、待ってる』

ミケさんがロッキンホースベイビーを高々に鳴らしながら売春街から出て行くのを追い掛けながら僕等は浜辺に出た。
およそ300メートルに渡って20程のプレハブハウスが点々と並んでいて、共同風呂やら共同トイレやらが設置されていた。

『蓮はあの一番離れたピンク色のプレハブに住んでるんだ』

『どうして村のアパートだとかで暮らさ無いんですか?』

『この浜辺はあの売春街が管理してる土地やねん、やからプレハブハウス暮らしもタダ同然の値段で暮らせるんだ、で、あれがあたしのプレハブ』
 
ミケさんが丸い小型バスの様な窓がいくつも付いたプレハブハウスに近付き鍵を開ける。
埃が舞う薄暗いプレハブ内はブラックデビルの甘いバニラの残り香が漂っていた。

『狭いけど、くつろいで?あ?靴は脱がなくて良いよ』

僕は砂だらけのスニーカーのまま中に上がった。
中はキャンバスだらけで何やら油絵の具の独特な香りと成熟した女性の香りがしていた。
無機質なベッドに横になりながらウイスキーを呷るミケさん。
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