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人魚島
第5章 夏祭り
咲子を残しライブステージ裏側の簡素なテントに行けば数10組のバンドグループがチューニングしたり煙草を吹かしたり談笑したりしていた。
その脇にベンチに腰掛け呑気に煙草を吹かした禅さんと正太郎さんが居て、更に奥では何やらスタッフと片付けに明け暮れる花子の姿があった。

『花子何してるの?』

『あ、ハルくん?来てくれたんだ?なんか直前に聞いたよ?ベース担当してくれるんやってね?』

『下手だけど手伝うよ』

『ありがとう、あたし女だけど前前前世歌うよ?好きなんだ、あれ…』

『君の名は…だっけ?』

『そうだよ、観に行けなかったんだよね』

残念そうに肩を竦めながら空のペットボトルやかき氷のアクリルケースをゴミ袋に素手でガンガン捨てて行く花子。

『何してるの?スタッフに任せりゃ良いじゃん?』

『どうしてそんな風に言えるの?』

花子が手を止めながら僕を見据えた。

『スタッフは時給か日給出るんだろ?やらせれば良く無い?』

『スタッフさんばかりに押し付けられ無いよ、村の人で構成されてるけど、手伝わなきゃ』

クロスでテーブルを拭きながら『次の次が順番やけん』と背中を向ける花子から離れて景気付けに手渡された缶ビールを呷ったが…すぐさま情け無く感じて僕は花子の真似をしてテーブルの上を片付けた。
スタッフから礼を言われて気持ち良かった。
花子は本当に働き者だ。
母郁子さんに似たのかも知れ無い。
ライブステージでは奇声を上げ人差し指と薬指と親指を高々に上げている。
いよいよ僕等の番になった。
ステージ裏から緊張しながら舞台に出れば250人の500つの目玉がこちらを見上げていた。
ザワザワしている。
かき氷やらイカ焼きやら手にしてボンヤリ見上げていた。
こんな青二才が何をし出かすのかと考えている様子だ。
僕等は13歳15歳16歳17歳だ。
ドラム一式をスタッフと一緒に組み立てギターとベースを構える。
ザワザワしている中に叩き込みたい気分になる。
『よし、いっちょやったるか』と禅さんがアイコンタクトする。
ザワザワの中に咲子と誠さんと春香さんと正子さんと穂波さんと悔しげな敦さんの姿を見付け思わず『ハルキぃぃぃッ!』に片手を上げて仕方無く応じた。
『春香ぁッ!見とけやぁッ!めっちゃ好きじゃあぁぁぁッ!』と叫び奇声を上げてジャンプし中指を立て『ファッキューッ!』と喚く禅さん。
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