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人魚島
第7章 大神魚人再来
『そうかな?車必要無いし、教師不足だ、すぐに就職先だって橘さんなら見付かるよ?』

『なら、奈良が良いや、広島弁通じん東京なんか嫌いやけん、まだ関西の方がええし、早坂先生とは別れたく無いしな』

笑いながら赤丸を燻らせる橘さん、なんだか寂しそうな横顔だ。

『すみません…やってますか?』

不意に入り口から色っぽいテノールボイスが響いた。
美沙さんが立ち上がり対応する。

『早坂、魚人くんだよ?急患だって?』

『どれどれ?』

カボスジュースを置いて早坂先生が立ち上がる。
僕も然り気無く早坂先生を追い掛けてウオトに対面する。
ウオトは甚平姿で何やら子供をおぶっていた。
小学生位の女の子だ。

『クラゲに刺されたらしいんです』

『ふぅん、クラゲかぁ、毒は抜いたの?とにかくお嬢ちゃんはオジサンと一緒に診察室に来なさい』

早坂先生が女の子をお姫様抱っこしながら診察室に運ぶ。
不意にウオトと目が合った。
ウオトは眼鏡越しに穏やかに柔らかく僕を見詰めながら『何?』とフンワリ微笑む。

『どうしたんですか?』

『観光客の娘さん、クラゲに刺されたみたいやねん』

『春魚の?』

『いや、隣の潮風さんの民宿のお客さんで、頼まれたんだよ』

笑いながら待合室のソファーに腰掛けるウオト。
多少日焼けしたのか昨日より肌が赤い。
ウオトは『何か飲み物ある?』とやんわり微笑むので、僕はグラスとカボスジュースのチェイサーをウオトに手渡した。

『カボスかぁ、懐かしいけんなぁ、去年も花子がカボスジュース作ってくれて時々ジャム迄煮詰めてくれたっけ』

『花子が?』

『うん、あの子料理得意やけん、何でも作れるし、春魚で出す創作料理のレシピだとかも、とにかく一緒に考えてくれたりするけんね、優しい女の子だよ。しかし、不思議な女の子やね、初めて見た時驚いたよ、だってのっぺらぼうなんだから、最初夏祭の悪戯かと思ったけんね、けど話せば話す分花子の事を理解出来たよ、あの子は可愛い、世界一ね』

そう捲し立て脚をクロスさせながらカボスジュースを飲むウオト。
発達し成熟した喉仏が上下している。
汗ばんだ首筋、いたく色っぽいでは無いか。

『春樹くんは初めて花子の姿見てどう感じたん?』

『え?』

『驚いたやろ?』

そりゃ確かに尻餅付く程後退り僕は恐怖した。
6日も前の事だったが、昨日の事の様だ。
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