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人魚島
第7章 大神魚人再来
ウオトからは磯の甘い香りがしていた。
それに西日の香りもしていたし、石鹸の香りもしていた。
香水や整髪剤の類いの香りは一切し無い。
何処か女性らしい甘い香りが鼻をくすぐった。

『売春街って確かこっちだよね?』

公道を左折し、砂浜の街道に出る。
すぐさま派手なネオン街が見えて来た。

『あれです』

僕が指差すとウオトが『承知』とフォルツァを右折させながら歓楽街の売春街に乗り上げた。
フォルツァを駐輪場に停めればミケさんが『おかえり』と笑いながら手招きし『誰やアンタは?見掛けん顔やな、客か?』とウオトを見詰めた。

『民宿春魚の大神魚人です。大学が夏休みの間だけ島にお世話になります』

『魚人くんか、うちはミケ、まぁ、売春街での通り名やけどな、良かったら中で酒呑む?うちのプレハブおいでや』

『良いのかな?』

ウオトがフンワリ笑いながらミケさんに付いて行く。
僕等はミケさんのプレハブハウスで一服する事にした。
ミケさんが蜜柑とジンでカクテルを2つ作ったが、ウオトは真面目なのか『アルバイト中ですから必要ありません、すみません』と笑う。
仕方無く『ふぅん、もしかして未成年か?』とウイスキーの封を開封し、らっぱ呑みするミケさん。
プレハブハウスは涼しい潮風が入り込んで来てウオトの長い前髪を揺らしていた。

『来月20歳です』

『はん、ならまだ大学2年か?』

『はい』

『どこ大学よ?』

『広島大学の医学部です』

『なんや早坂先生みたいに医者目指してんのか?』

ハムパンを早速咀嚼しながらミケさんが目を丸くした。
ウオト、医学部なのか。

『はい、僕は孤児で生まれた内から漁師に預けられた子供なんです。貧しい家庭で母は病気でした』

『何の病気?癌?』

『いえ、顔が腐る奇病でした、それからかなぁ?母を治療したくて猛勉強して広島大学の医学部に入学して…しかし母は一昨年亡くなりました。それから気晴らしに浜のアルバイトを探してみたらこの人魚島の民宿のアルバイトに辿り着いて運良く他のアルバイト希望者も居無かったんで無事に合格してヒィヒィ言いながらも今やってます』

『みなしごなんや?』

『はい、浜辺に打ち上げられていた所を父が見付けてくれたんです』

『苦労したんやな、まだ若いのに』

顔が腐る奇病?
まるで咲子が以前祠で話していたお伽噺の奇病の様だ。
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