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人魚島
第2章 人魚島
『花子は待ち受けにしないんですか?』

僕は缶ビールをコトッと卓袱台に置きながら訊ねた。

『ああ、あの子はアカン、写真撮影しても、ほら、この通りや』

三咲さんがスマートホンの画面を僕に向けた。
そこには顔にモザイクの様なモヤが掛かった花子のピース写真があった。
顔が写ってい無い。

『これは?』

僕は三咲さんを見詰めながら訊ねた。

『解らん、いくら撮影しても顔だけは写らんねん、おっかないやろ?』

ゾクッとした。
人魚の呪い?

『あの、人魚の呪いってなんですか?』

『ああん?まぁ、あたしも詳しく知らんけどななんか魚人様の巫様は魚人様の呪い受けて産まれるらしい』

三咲さんが紫色の煙を唇の端から燻らせながら続けた。

『今時さ、言い伝えみたいな呪いがあるけん、最終的には魚人様に嫁いで魚人様の御子を孕むのが巫の勤めや』

『じゃあ、慎三さんは一体何を釣り上げたんですか?』

酔っ払い饒舌になった三咲さんなら教えてくれそうな気がして僕は思わず訊ねた。

『それは一族以外言えんわ』

真顔になりピアニシモを新たに取り出し燻らせる三咲さん。

『話し過ぎたな、もう9時や、ちょっと早いけどはよ寝たら?明日は朝から畑仕事手伝ってもらうで?』

『畑ですか?』

『そう、砂糖黍畑、佃煮作るけん、砂糖が必要やけん』

ニヤリとする三咲さん。
確かに広島県は佃煮が有名だ。

『昼飯に佃煮出してやるよ、安心しぃ?イナゴの佃煮ちゃうよ?今時イナゴの佃煮なんか戦後間も無い訳や無いねんから』

肩を竦めながら三咲さんがニヤニヤし『コンドームやるけん、いつか使えるとええな』と僕の手中にコンドームのパッケージを押し込む三咲さん。

『疲れたけん、はよ寝?今日は船に揺られて疲れたやろ?』

確かに多少疲労していた。

『じゃあ寝ます。色々ありがとうございました。おやすみなさい三咲さん』

『おやすみ春樹くん』

僕はソッと居間から出ると咲子の部屋を目指した。
静かに咲子を起こさぬ様に忍び入りふすまを閉めた。
『あれ?』ふと月光の中、二段ベッドの一階を見れば毛布が乱れ咲子が居無い。
トイレかな?と首筋をポリポリしながら二段目に上れば咲子が二段に居て寝息を立てていた。
僕はビクッと狼狽え仕方無くはだけた毛布を咲子に被せてやり、一階で寝ようとしたが雌の香りが充満していて近付けそうに無い。
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