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人魚島
第10章 東京編
『うん、16週目から早い女の子だと胎動感じるらしい』

『楽しみだね、彼女今幸せの絶頂期じゃん?』

まぁ、HIVウイルス感染以外は幸せの絶頂だろう。
確かに間違い無い、それは言えている。
僕は『頂きますね』とブラックパールを呑んだ。
ブラックパールは苦くて甘い。
慣れて来たからまぁ、美味しい。
ホロ酔いになりながらイシコリドメから『名前はどうするの?』と目をキラキラさせて訊ねる。

『女の子だったら春子、男の子だったら秋樹だよ』

『秋に生まれるんでしょ?』

『春子は変かな?やっぱり秋子かな?』

『ううん、そう言う意味で言った訳じゃ無いのよ』

笑いながらブラックパールの水割りを傾けるイシコリドメは今夜も美しい。
GIVENCHYが豊かに香っている。

『やあ、来たよ』

タマヨリヒメがVIPルームにヒョッコリ顔を出した。
白いTシャツに黒のサルエルパンツに黒いエンジニアブーツと全身ドルチェ&ガッバーナで固めクロムハーツのアクセサリーをジャラジャラ着けている。

『初めまして、ボクはタマヨリヒメ、多摩頼姫人って名前で人間界に居る安産祈願の女神です』

タマヨリヒメが『お邪魔かな?』と笑いながらイシコリドメに挨拶する。

『邪魔じゃ無いわ、一緒に呑みましょう。私はイシコリドメ、石五里富芽子よ、鉄の女神よ』

あらかた両者の挨拶が済んだ様だ。

『座って良いの?』

タマヨリヒメがニコニコしながら僕の隣に腰を下ろす。

『みんなで呑んだ方が楽しいわよ』

『それもそうだね、ボクのリシャールも持って来て貰うよ』

あたりめ、果物の詰め合わせ、リシャール、ブラックパールがテーブルに並ぶ。
不意に花子の様子が知りたくて僕は然り気無く『トイレ行ってきます』と彼女等を置いてロッカールームにて花子のスマートホンに電話する。
繋がら無い。
一抹の不安が押し寄せて来た。
薬はきちんと飲んだのだろうか?
口内炎は?下痢や発汗、つわりは大丈夫だろうか?
寝てしまっているのだろうか?
『起きたらLINEして?』とだけ送る事にした。
そしてイシコリドメとタマヨリヒメが待つVIPルームに戻る。
二人は打ち解けていて、高原天、通称神の国は狭いだの良い奴が居無いなど言ってリシャールとブラックパールを傾けていた。

『やあ、戻った?花ちゃんに電話してたんだろ?』

タマヨリヒメ、目敏いなぁ。
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