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人魚島
第3章 説教
『許さんけん浮気しとったらぶち殺したるけんな、八つ裂きにしたるけんな、呪ったけんねんな、ああ、夏休みやけん蒸れたかなぁ?』

耳の穴をホジホジし、小指を捩じ込み指先をフッとする橘さん。
白米を大口を開いて食しながら『コシヒカリ美味いけんな』と続けて豚汁を啜りながら再び煙草を吸う橘さん。
『咲子がこさえたんか?』と嬉しそうにニヤニヤしながら豚汁を啜り『せやからお前らは弁えろや?』とやかましい。
脚が見事に痺れ僕は脛椎をボキボキ鳴らしながら姿勢を直した。
目敏く橘さんが指摘して来る。

『お前な、俺がわざわざ説教してやってるのに、正座崩すとは何事やねん。後ボキボキ鳴らすなや、みっとも無いねん、薄ら気持ち悪いねん』

スクランブルエッグを最後に一摘まみし、食しながら『チッ…ピアニシモ薄いけん』と舌打ちし箱を卓袱台に叩き付ける。

『咲子はええ嫁さんになるなぁ、この豚汁絶品やぞ?なぁ、お前俺の新妻にならんか?幸せにしたるけんな』

下品にニヤニヤしながら橘さんがネットリ咲子を眺めた。

『いや、だから冗談半分は通じんけん』

目を伏せながら咲子が空いた皿を回収した。

『はよ食わんね?』

咲子が促す。
渋々箸を置いて爪楊枝でシーハーさせる。
ヤニで黄ばんだ前歯が西日にテラテラ光っていた。

『しゃあ無いけん、はよ皿洗いせや?坊主、お前は俺の説教聞いとけ?』

橘さんがしつこく豚汁を啜りながらようやく名残惜しそうに器を咲子に手渡す。
『なかなか筋ええな、良い嫁さんになるけんな』と舌舐めずりして見せた。
品の無い前歯が見え隠れした。
ヌメヌメして糸が引いている。

『咲子、皿洗いせぇよ』

橘さんが指摘した。
渋々立ち上がる咲子。
思わずパンチラし目敏く橘さんが『今日はピンクか』と呟く。
イヤらしい言葉に吐き気がした。
反吐が出そうだ。

『洗って来るけんな』

咲子がフワフワスカートを靡かせながら台所に消えて行き、僕と橘さんが居間に取り残された。
恨めしく橘さんを眺めた。

『何ジロジロ見とんねや、あ?』

『いえ…』

オダギリジョーみたいな端正な顔が歪み、橘さんは顎やら口元にやら生えた無精髭を撫でながら溜め息を吐き出した。

『お前らはフリーダムやけん、羨ましいけんなぁ』

再び爪楊枝を駆使し、ニヤニヤする橘さん。

『で、セックスヤリ方解ってんのか?』
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