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人魚島
第4章 咲子の村案内
『おばちゃん、こんにちは、あ、広子も手伝いに来てたんや』

ややケバい化粧、昨日海岸で花火した広子さんがニヤニヤしながら『デート中?』とお盆をギュッと抱き締める。

『広子のばぁちゃんちやねん』

咲子が『ここに座ろ』とカウンター席に腰掛けた。
15畳程度のなかなか広い店内、壁には手書きのメニューが何故か斜めに貼られていた。
ガサッと新聞紙を広げる壮年の漁師らしい日焼けした男、煙草を吹かす若い漁師らしき男等がまばらに座っていた。

『空いてるけん、早く出せるよ?何にする?』

広子さんがニヤニヤしながらメモを片手に僕達に近付いた。

『うちはカルボナーラ、チーズタップリでな?ハルキは?』

『じゃあ、僕ハヤシライス』

『解ったわ、咲子がカルボナーラで春樹くんがハヤシライスやな』

メモに走り書きし、厨房に伝達する為消えて行く広子さん、店内には懐かしいZARDが静かに流れていた。
有線では無く古ぼけたラジカセからの様だ。
僕等は互いに通っている学校の話や吹奏楽部の話をしたり咲子が4月30日生まれで僕が6月30日生まれだから2ヶ月違いだねと語った。
咲子は饒舌だった。
目をキラキラさせながら僕の目をクリクリ見上げて来る。

『出来たけん、火傷しなや、何かあったら呼んで』

広子さんが空いたテーブルを拭きながらお尻をプリプリさせた。
不意に陰茎がビクンッとした。

『はよ冷める前に食べよう』

咲子がフォークをカルボナーラの中に突き刺した。
そしてクルクル巻いて大口を開いて一口でペロリと食べた。
僕もハヤシライスを食した。

『美味いね』

『うん』

ハフハフ言い合いながら食べていた時だ。
不意にZARDの揺れる想いのイントロが流れた途端、咲子が唇を尖らせ明らかに不服そうな表情を浮かべた。

『どうした?』

僕は咲子の顔を覗き込む。
咲子は『別に』とプイッとする。
ZARDだ、それも揺れる想い…花子が夏祭りでバンドを組んで奏でたそれに咲子は嫉妬しているのだ。

『咲子、大丈夫?』

『アホたれ…最高に気分悪いわ、行こう』

咲子が立ち上がる。
仕方無いのでまだ食べさしだったが、僕も立ち上がり1400円支払ってパーラー末次から出た。
午後からは雨だと言うのに空は快晴、入道雲が浮かんでいる。
パーラー末次の隣の駄菓子屋でかき氷を食べた。
共にハワイアンブルーにした。
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