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人魚島
第4章 咲子の村案内
禅さんと目付きは違ったが鼻先や鱈子唇がよく似ている。

『か、彼氏や無いよ』

咲子が慌てて首を横に振る。
なんだか僕迄気恥ずかしくなり顔を伏せながら紅潮した。

『はぁ、なんやまだ付き合って無いんか?なら咲子、良い加減俺と付き合えよ?赤神様済ませた俺やけん、イかせたるけん』

敦さんがニヤニヤしながらポケットからラークの箱を取り出してスナックマーメイドと陳腐に印刷コピーされたライターで煙草の先端に火を近付けスーッと吸い込み『はぁぁぁ…』と唇の隙間から煙を燻らせた。
年の頃は16歳と言った具合か。

『俺、禅の双子の弟やねん、二卵性やけん、そこまで似とらんじゃろ?』

ニカッと笑いながら敦さんが所謂うんこ座りをし、カッコ良く煙草を吸う。

『昔は全く同じ顔しとったけん、違いが解らんかったけん』

咲子もしゃがみこんだので、僕もしゃがみこんだ。

『お前らヤッたんか?』

不意に真顔になり、敦さんが訊ねて来る。
半分ヤッたし、もう半分はヤッて無い。
橘さんに言わせればアレはまだセックスでは無いらしい。

『まさか、ヤッて無いよ』

咲子が笑う。

『ほな、なんだってこんな精液臭いねん、中に出したんとちゃうんけ?』

真顔のまま敦さんが続ける。

『セックスした後の臭いがするぞ、俺は鼻は良いねん、解るわ…しかも今さっき…飯食う前にヤッたやろ?なぁ、臭いぞ?』

訝しげに敦さんが吸殻を揉み消し『親方に叱られるけん、ポイ捨てはせん』と携帯灰皿に捩じ込んだ。

『しとらん、うちはまだ処女やで?』

『来月赤神様やんな?済んだらちゃんとコンドーム着けるけんヤッてみようや』

『嫌や、敦とはやらん』

咲子が『ガソリン満タンにして』と立ち上がる。
釣られて僕も立ち上がる。

『しゃあ無いな、2円ばかし負けたるけん、ヤラせろよな?』

『ヤラん言うとるやろ、しつけぇな、敦の母ちゃんに言うぞ?』

『解った解った、母ちゃんの小言だけは勘弁…なぁ、お前ら暇か?おもろいもん手に入ったけん、事務所来いや、今日は夕方迄俺独りやけん、怒られたりせんけん』

敦さんが立ち上がり事務所に手招きする。
事務所とは言え単なる座敷だった。
座敷中央にひしゃげた卓袱台が並び穴の空いた座布団と万年床が転がっていた。

『仮眠やセックスに使う万年床やけん、臭いぞ、コカ・コーラ淹れるけん、まぁ、待てや』
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