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人魚島
第4章 咲子の村案内
咲子と絡まり合いながら全身を濡らしながらゆっくり滑らない様に進んだ。
手は相変わらずしっかりギュッと繋ぎ合ったまま、歩いた。
雨足が一層強まった。
天気予報は嘘では無かったらしい。
次第に剥き出しの生々しく光る消波ブロックが数メートルに渡って並び、覆う様にしてマングローブが群生し密林していた。
そして80メートル程進んだ所で左手にポッカリ幅10メートル、縦15メートル程の空洞が見えて来た。

『あれや』

咲子が華奢な指先でそれを指差した。
ポッカリポッカリ浅瀬に口を開いている。
長い注連縄に囲まれ穴を塞ぐ様に8個程上から順に縛られて荒波に揺れていた。

『入るには魚沼家の合言葉が必要やけん』

『合言葉?』

『せや、明るい内に行くけんね』

咲子がヌルヌル海面にワカメを密集させた消波ブロックを踏み締めた。
途端バランスを崩し尻餅を付く咲子。
『ああ、痛いッ!』咲子が両手を付きながら立ち上がり手のひらをパンパン払った。
『骨盤ぶつけたけん、痛い』弱々しく呟く咲子。
腰を擦りながらヨロヨロノロノロ動き出す。
浮かぶブイが人の悲鳴の様にあ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ーッ!と不気味に唸った。
それが荒波に揉まれた音だと知るにはしばらく時間が必要だった。

『見えて来たけんな』

『合言葉って?』

『これや、魚人愛執憎悪春夏秋冬快愉空海陸風星月』

咲子がぶつくさ呟いた。
途端応える様に穴の空洞に隙間風が入り込み一気にコウモリ達がウジャウジャ溢れ出て暗闇から一気に明るい空に飛んで行った。
不気味な光景に唖然とする僕の手をギュッとする咲子。

『怖いけんギュッてしててね?』

咲子が震えた。

『初めて来たの?』

『いや、2年に一度ばかり来たけん、かれこれ7回や』

『何しに来たの?』

『魚の仔って入れ墨背中に彫る為や』

『入れ墨?』

見え無かったが咲子には背中一面にビッシリ魚の仔と入れ墨が入っているらしい。

『和彫や、痛かったなぁ、特に骨盤に彫るんが痛かった…麻酔欲しい位暴れまくって母ちゃんの手を煩わせたっけ…』

三咲さんの手を煩わせる程もがき苦しんだ入れ墨とは…?
疑念は尽きなかったがゆっくり前進する事にした。
ポッカリ不気味に開いた洞窟には墓がいくつか卒塔婆を生やしながら点在してマングローブに沈んでいた。

『この墓は?』

『村長一族の墓だ』
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