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人魚島
第2章 人魚島
咲子がサンダルの裏でブレーキする。
ズザザッと鳴るサンダルの裏。
"スナックマーメイド"と曲がった看板にひしゃげた塗炭屋根、上木鉢が並び金木犀の木々が繁っている。

『母ちゃんが11年前からやっとる酒場や、この島唯一無二の酒場やでな』

咲子が軒先に自転車を立て掛け、暖簾をくぐり鍵の閉まってい無い無防備なスライド扉を開け放った。

『母ちゃん寝とるか?』

静かに呟き数珠状の暖簾をくぐり薄暗い店内の電気を付けた。
静かな中、女性らしい寝息がスーッスーッと聞こえる。

『三咲なら寝てるけん』

奥から上半身裸で下はトランクス、片手に焼酎の大振りな瓶を手に暖簾を掻き分けながら若い男が『眩しいな』と目蓋を擦りながらサンダルを引き擦りこちらにやって来た。

『よぅ、咲子か』

『………』

『なんや、相変わらず無愛想やな』

男は赤丸の箱を取り出しシルバーカラーのジッポーを取り出しカキンッと乾いた音を鳴らしながら赤丸の煙草の先端に火を近付けた。

『で、おめぇさんは誰よ?』

紫色の煙を吐き出しながら男が僕を指差した。

『慎三ひぃじぃちゃん亡くなったから…東京からわざわざ来てくれたハルキや』

『へぇ、じぃさん人望まだあったんや』

『アンタも挨拶しぃや、てか服着ぃや、奥の座敷でヤルな言うてるやろ?店内にアンタのイカ臭い精液の臭いが移るねん』

『ハハハ…まぁ、そう尖るなや、坊主、俺は橘言うねん、まぁ、見てくれたら解るやろけど、学校で教鞭持ってる不良教師や』

『わ、くっさ…』

咲子がサンダルを脱ぎながら橘さんを押し退けて奥の座敷に入り込む。

『母ちゃん起きてや、東京から客人やで』

『あ…もう少し寝させてや』

座敷からは何やら色っぽい声がし衣擦れの音がした。

『三咲、起きんかッ』

橘さんが壁にもたれしゃがみこみながら大声を張り上げた。

『何よ…アンタら』

男物のYシャツに下はパンツだけと言う出で立ちでスラッとした若い女性が座敷から這い出て来た。
ビックリする位の美女で長い黒髪が汗で額に貼り付いている。

『誰やねん?』

瓶ビールをらっぱ呑みしながら彼女は続けた。

『あ、孝、また店の鍵締めやんとヤッたんか?』

『お前のブラジャー外すのに手間かかるからな』

橘さんが焼酎を呷りながら女性を後ろから抱き締め見せ付ける様に口付けを繰り返した。
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