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ロリちゃん作品集 (一章読み切り式)
第28章  現実


 それだけで幸せだ。
 勿論、声援も送った。
 間奏のターンの時由麻菜がよろめく。そのまま俺の方へ落ちてくるのを、思わず抱きかかえた。
「キャーっ! ごめんなさぁい。ありがとう」
 体に触るなど絶対に禁止だが、今回は特別。俺が抱えなければ、由麻菜は硬い床に落ちていた。だから、警備員にもお咎め無し。逆に謝られてしまうほど。
 俺はこの手で、由麻菜を抱きかかえたんだ。それだけでも、今日来て良かった。いや、この席が当たった事に感謝。
 会場がざわつく中、急いでステージへ戻った由麻菜は、スカートの中が見える振り付けで踊り出した。


 長いはずのステージも、あっと言う間。
 でもまだ、お楽しみが待っている。そう。10分間のトーク。
 通常の握手会に行っても、会えるのは10秒ほど。ろくに話も出来ない。
 特別限定席の10人だけが、ステージ裏へ通される。他のみんなも緊張した様子で、警備員の後を着いて行った。
 由麻菜を指名したのは、3人。俺は最後の椅子に座り、順番を待っていた。
 やっと俺の番。ドアをノックしてから、個室に入った。
 部屋の両端には、思った通り警備員。だが、椅子から立ち上がった由麻菜が笑顔で迎えてくれる。
「あっ、お兄ちゃん、さっきのぉ……」
 テーブル越しに用意された椅子に座ると、由麻菜が身を乗り出す。
「さっきはありがとう。あのまま落ちたらぁ、絶対ケガしてたぁー」
「い、いやあ……」
 由麻菜から手を差し出され、固く握手をした。由麻菜はそのまま話し出す。
「せっかくの、キメのターンなのにぃ。失敗しちゃって、ごめんなさぁい」
「そ、そんな事ないよ。でも、ケガしなくて、良かったね」
「うん。お兄ちゃんのぉ、お蔭ぇ」
 ライブの感想などを話していると、警備員から声が掛かる。
「瀬戸さん。お時間です」
「えー。お兄ちゃんが最後でしょ? もう少しぃー」
 警備員も、さすがに人気アイドルには逆らえないようだ。
 由麻菜が小さく手招きをした。
 俺が顔を近付けると両手を耳に当てられ、またお礼を言われた。その最後には……。
「裏口で待ってて。ちょっと時間かかるけど……」
 空耳か? 由麻菜が好きすぎて、妄想の声でも聞こえたのだろうか。


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