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ロリちゃん作品集 (一章読み切り式)
第28章 現実
「じゃあねぇ、お兄ちゃん。今日はありがとう。またねぇ」
手を振りながら、俺は警備員が開けたドアを出た。
建物の裏へいったが周りには出待ちのファンが大勢いて、迎えの車が来る度に写真を撮ったりしている。
由麻菜は、出待ちして欲しいという意味で言ったのだろう。ヘンに期待した俺が、バカだ。
地下アイドルから始めたが、今はCDが1位になる程の人気グループ。俺も妙な期待は消し、出待ちする事にした。
車が来ても、裏口を塞ぐように停まる。だから、どのメンバーが載ったのかさえ解らない。後部座席の窓はスモークになっているから尚更だ。
ここにも何人か警備員がいて、近付く事を制止している。
諦めて帰ろうとすると、背中を叩かれた。
「お兄ちゃん。解るぅ?」
「えっ? 由麻……」
口を抑えられる。
「シーっ。ここを離れよう?」
「あ、ああ」
小声だが、由麻菜の声に間違いない。CDで複数で唄う所でも、由麻菜の声なら聴き分けられる。
「早くぅ、バレないうちにっ」
すぐにタクシーを拾い、由麻菜が先に乗った。
「取り敢えずぅ、駅の方に走ってくださぁい」
完璧な変装。
長い髪を帽子に入れ、黒縁の眼鏡。服も芸能人らしくなく、量販店で買ったようなもの。これでは、出待ちの女性と変わらない。最近は、女性ファンも出待ちをしている。さっきも何組かいた。
「お兄ちゃんちぃ、どこぉ?」
下町と呼ばれる区を言うと、運転手にその目的地を告げている。
「えっ? く、来るの?」
「ダメぇ?」
「いや、ダ、ダメってわけじゃ……」
由麻菜が、俺の部屋に来る? にわかには、信じられなかった。
「だってぇ。この時間外にいると、補導されちゃうもん」
由麻菜はまだ13歳。繁華街などに連れて行けば、怪しいと補導されるかもしれない。
「タクシー代はぁ、由麻菜が払うからぁ。今日のお礼。命のオンジンだもん」
部屋に来ても、どうやってもてなせばいいんだろう。気の利いた、菓子があるわけでもない。
さっきは10分限定だったから、楽しく話す事が出来た。今はタクシーで並んでいるだけで、緊張している。これ以上、上手く話せるだろうか。
俺の心配をよそに、タクシーはマンションへと進んで行く。