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ロリちゃん作品集 (一章読み切り式)
第28章 現実
由麻菜が口を抑えて、上体を上げる。
「飲み込める?」
俺の出したモノが、殆ど口に入ったようだ。
「んっ……」
少し戸惑った後、ゴクリという音。
「はぁ……」
「大丈夫だった?」
残滓を拭きながら訊いた。
「うん……。ちょっとだけぇ、苦かったぁ……」
初めてならそうだろう。
「口、ゆすいでくる?」
「ん……。いいのぉ?」
遠慮したように言う由麻菜に、笑顔で頷いた。
すぐに洗面所へ行き、少ししてうがいの音も聞こえる。
「あっ。スマホ鳴ってるぅっ」
それも聞こえ、俺も居間へ行った。
『どこにいるんだ! こんな時間まで!』
近付くと、スマホから男の声が漏れてくる。怒鳴っているのも解った。
「由麻菜ぁ、卒業するからぁ。卒業公演もしないっ!」
『ふざけるなっ! 早く帰って来いっ! 今なら許してやるからっ!』
「卒業するってぇ……。あ、切れたぁ……」
スマホを見つめていた由麻菜が、急に俺を見る。
「お兄ちゃん。一度ぉ、寮に帰るねぇ。荷物もあるしぃ……」
たった数時間だけの恋人。
俺はそう考えていた。
電話の男は、多分プロデューサーだろう。戻れば上手く言いくるめられ、アイドルを続ける可能性が高い。
今の由麻菜の人気なら、セックス無しでも手放したくないはずだ。
「あっ、メアド、交換してぇ?」
「あ、ああ……」
鞄にあったスマホを出し、メールアドレスを交換した。
俺から連絡はしない。そう決めていたが、すぐ由麻菜に拒否設定されるだろう。
今日の事は、俺の中だけに留めておけばいい。また毎週土曜日は、あの世界に通えばいいだけだ。
シャワーを浴びてから身支度を整えると、呼んでおいたタクシーが時間通り来る。
由麻菜を、嫌いになったわけじゃない。
彼女には、ステージライトが似合っている。俺は2Kの部屋に住む、普通の会社員。釣り合うはずもないのは解っていた。
「じゃあ。気を付けて」
「うん。連絡するからねぇっ。バイバイっ」
下まで送れば、人目に付くかもしれない。そう考え、玄関で由麻菜を見送った。
無断外出でも、女友達の所だと言える。
最後の「バイバイっ」という言葉が、頭から離れない。
由麻菜の温もりが残っているような、ベッドシーツに俯せた。