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ロリちゃん作品集 (一章読み切り式)
第28章 現実
「お兄ちゃんっ!!」
由麻菜は可愛らしい普段着だが、変装はしていない。
いきなり抱き着かれ、不意打ちを喰らったように後ろへ倒れた。由麻菜だけは、守るようにして。
「ど、どうしてっ?」
「だってぇ。恋人でしょ?」
由麻菜は、嬉しそうに笑っている。
体勢を戻し、由麻菜を居間へ連れて行った。
「あんなんで、卒業って。大丈夫なの?」
「ゴメンね。連絡出来なくてぇ。寮の荷物、必要な物だけぇ、こっそり実家に運んでたのぉ。結構、大変だったぁ」
由麻菜は笑顔のまま。
その時、何かザワザワとした物音が外から聞こえてきた。
「何か音が……」
「開けちゃダメぇっ!」
カーテンを開けようとして、由麻菜に制止される。
「外に、マスコミがいっぱいいるからぁ。タクシーの後を、着けられちゃったみたい。ゴメンねぇ」
「はあ!?」
カーテンの隙間から下を見ると、テレビでよく観る光景。マイクを持ったリポーターだの大きなカメラを持った取材陣が、大勢マンションの前にいる。
生放送であんな事を言えば、当たり前かもしれない。俺が視聴者の立場なら、由麻菜の好きな人を見たいと思う。
救いは、不法侵入になるからマンションの敷地内へは入れない事くらいだ。だが、一生外に出ないわけにはいかない。
俺は一般人だから放送でモザイクがかかるとしても、絶対にネットには、どこかから探した顔写真が載るだろう。大手掲示板で叩かれまくり、マンションまで来るかもしれない。
「何かぁ、ゆっくり、出来ないねぇ……」
由麻菜が呟くが、俺だってどうしたらいいのか途方に暮れている。
俺1人が出るなら、何も知らないとごまかせるかもしれない。だが、由麻菜だってずっとここにいるわけにはいかないだろう。
裏口はあるが、そこだってマスコミは見逃さないはずだ。
取り敢えずは、由麻菜とゆっくり話がしたい。
「そうだ!」
俺は財布を戻したいつもの鞄を斜め掛けにして、クローゼットを開ける。
「お兄ちゃん。どうしたのぉ?」
「手をつないで。何があっても、絶対に離すなよ」
「う、うん……」
由麻菜の手をしっかりと握り、一緒に黒いシミへと入った。