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ロリちゃん作品集 (一章読み切り式)
第28章  現実


 記者会見から数日後の土曜日、玄関チャイムが鳴る。
「引っ越しの白猫センターです」
「よろしくお願いします」
 荷物はもう全て梱包してある。
 このマンションはもうマスコミにバレていて、あの日ほどではないが、いつも記者が何人か張っていた。
 俺はわざと外に出て、荷物が積み込まれるのを見ている。勿論、すぐに記者が寄って来た。
「え? 瀬戸、由麻、菜? アイドルは興味なくて。このマンションは、殆ど男性の一人暮らしですよ」 
 俺まで平気で嘘がつけた。由麻菜の為だと、昨夜の練習の成果だが。
 積み込みが終わると、俺もトラックに乗って引っ越し先へ向かった。


 由麻菜の為にと借りた、2LDK。
 一緒に住めるわけではないが、今までの部屋よりは居心地がいいだろう。日当たりがあまり良くないせいで、他の部屋より家賃が少し安かった。普通に生活していれば、無理なく払っていける。
 これからは、地下アイドルに散財する事も無いし。
 引っ越しも終わって一段落した日曜日。電話で教えた住所を頼りに、由麻菜がやって来た。
「うわぁ。前より広いねぇ。まだ、段ボールがあるんだぁ、手伝おうかぁ?」
「大丈夫だよ。それよりさ……」
 由麻菜を引き寄せ、キスをして舌を絡め合う。
「はぁっ……。んんっ……」
 引っ越す時に心配だったのは、クローゼットの黒いシミの事。備え付けだから、持って行く事は出来ない。
 だが、この部屋の寝室のクローゼットに、シミも一緒に引っ越していた。
 俺に着いてくる仕組みなんだろうか。
 何にせよ、今は一安心。いつでも、由麻菜と一緒にあの世界へ行かれる。
「ふぅっ……」
 唇を離し、由麻菜を見つめた。
「ここまでで、後は、あの世界に行こうか……」
「うんっ」
 いつもの鞄を斜め掛けにして、由麻菜と抱き合いながらシミへと入る。
 着いたのは、遠くまで見渡せる草原。後ろにはいつも通り、俺達だけに見えるドア。
 すぐ街へ入ると、「可愛いー」と由麻菜が店の前へ行く。見ているのは、ワンピース。
「帰ったら消えちゃうけど、買う?」
「えっ。いいのぉ?」
 値段は350円だ。買う事に決め、店の奥で着替えさせてもらう事にした。
「どう? お兄ちゃん」


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