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愛されたいから…
第3章 イルマと南郷と律子
その言葉にうっとりとしていた俺は一気に我に返ってから

『えっ、あっ…、はい。問題ありません。お待ちしております。』

と馬鹿みたいな返事を南郷さんにしてしまう。クスッと南郷さんが小さく笑う声が聞こえて来るから俺は自分が恥ずかしくてまた顔を上げれなくなっていた。

俺から離れた南郷さんは普通に編集さんらしく

『それでは明日、よろしくお願いします。』

と俺に背を向けて立ち去っていた。南郷さんの広い背中を眺めたまま俺はしばらく呆然としていた。

とりあえず俺は再びエレベーターに乗り、12階の自分の部屋に戻っていた。リビングのソファーに座り込んでから俺は

南郷さんが俺にキスしてくれた…

とか色々と考えてしまう。俺にキス…、思わず自分の口元を自分の手で押さえてしまう。だって俺は男で南郷さんも男で…、てか、南郷さんはちゃんと俺が男だってわかっているよな?

女みたいな顔の自分にコンプレックスを持っている俺はまずはそう考えずにはいられない。だけど南郷さんは期待してるとか我慢が出来ないとか俺に言ってくれていた。

期待って俺に何かを期待してくれているのか?我慢って俺にキスしたいって事なのか?

もしそうなら俺は嬉しくて発狂しそうだとか思ってしまう。俺の憧れの人が俺を見てくれて、俺を求めてくれるとか俺は一気に興奮してしまう。

その瞬間

『イッちゃん?』

と自分の服に着替えたリッちゃんが俺に声をかけて来た。やばい…、うちにはまだリッちゃんが居たんだ…、と思った俺は慌てて

『さっきの人、例の官能漫画の俺の担当編集さんなんだ。しかも編集長さんなんだぜ。』

と出来るだけ冷静にリッちゃんに南郷さんの事を説明していた。何故かリッちゃんはニヤニヤとして嬉しそうに

『ふーん…、あの人がイッちゃんの初恋の人になるんだぁ。イッちゃんも好きだよねぇ。』

と言って来た。

初恋とかどういう意味だよ…、と俺はそうリッちゃんに言いたくなる。

『初恋って、俺は一応、前に彼女は居たし、それに南郷さんは男だぞ。』

と少し不機嫌になって俺はリッちゃんに言っていた。
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